ジルコニア人工歯と院内技工室
ジルコニア人工歯と院内技工室
ジルコニア(二酸化ジルコニウム、化学式:ZrO2)とは、ジルコニウムの酸化物のことです。広い意味ではセラミックスの1つになります。
常態では白色の固体です。融点が2700℃と高いため、耐熱性セラミックス材料として利用されたり、また、透明でダイヤモンドに近い高い屈折率を有することから模造ダイヤとも呼ばれていて、宝飾品としても用いられています。
女性の方なら人工ダイヤとしてお聞きになったことがあるかもしれません。実際には宝石ではありませんが、宝石よりはるかに安価で加工しやすく、金属と同じくらい硬い材質であるため様々な用途に使われています。
近年、歯科材料にも用いられ、その強度、色味、加工の容易さと精度から従来のセラミックスの強度という決定的な弱点をカバーする材質として、利用されるケースが多くなってきています。
金属やメタルボンドなどの従来型の人工歯は平成24年に全て一新いたしました。以来ジルコニア人工歯製作技術を磨き続け、優秀な院内歯科技工士の育成とオールデジタル化に取り組んでまいりました。
全ての人工歯はジルコニアだけを使用しております。銀歯やセラミックスは使用しておりません。色調も安定して同じ色が出るので、ばらつきがなく、長期使用でも変化がありません。強度も高く、精密加工に向いた新しい素材です。
前歯のような見た目が大事なところや、大きな症例などは、使用感を試すためにトライアルティースを入れます。いきなりジルコニア人工歯を入れてしまうと思っていたものと違うものができてしまったり、噛み合わせがしっくりこない場合があります。そのため本歯の前に試しの歯を入れて問題がないか患者様本人に確認していただきます。
ジルコニアのブロックは写真の通り白いディスク状の形態で白色です。
硬さは石膏程度ですので、CAM機によって容易に削り出しができます。
ミリングが終わって削り出した人工歯を、シンタリングファーネスの中に入れて1600度で焼成します。すると金属レベルに固くなります。また、あらかじめ色素も入っていて焼成すると、発色するようになっています。当院では新旧3台のシンタリングファーネスがあります。
研磨作業をして納品チェックして終了です。
当院のジルコニア加工は平成24年からですが、当初はこのジルコグラフというデジタル化も電動化もされていない機器がスタートでした。
ブロックに精度が高く1.25倍の大きさでトライをコピーします。これをコピーミリングと言います。この作業は手作業ですが、技術を習得した人であれば、ネジ穴、歯の溝、微妙な凹凸は完全にトライの複製品ができます。ミリング自体の時間は1本で40分程度、3本ブリッジなら1時間くらい、大きなブリッジでも4時間くらいでしょう。この間は集中力が必要です。コピーミリングが終わってからも大切で、ミリングドリルの削りムラを平らにならし、研磨と形体の修正をするのですが、この過程がもっとも技工作業の腕の差が出るところでしょう。
次に着色ですが、専用の着色剤を塗ります。着色剤の塗り方には経験が必要です。色見本が60パターン以上あり、オリジナルで製作できますし、あらゆる歯の色に対応できるかと思います。着色したら乾燥させて、シンタリングファーネスという機械で焼成します。 1600度10時間の焼成を経て、形が1.25倍小さくなります。するとトライと全く同じ形体のジルコニアができます。あとは再び研磨、ツヤ出しを行います。
ジルコニア加工もイメージ通りの仕上がりになります。トライのうちに形態は合わせてありますので、セットするだけで、違和感のない人工歯となります。
当院受付の後ろに、ジルコニア加工に特化した院内デジタル技工室を配置いたしました。名称は「3D LABO」です。 3D LABOは普段歯科技工に触れることのない患者様への説明の一環として、透明性の高い技工室を目指して作られました。中に入っての見学も歓迎しております。
インプラントの人工歯や自費の白い歯の素材として、最適なジルコニアの加工のみに特化した技工室です。
当院で採用している機器は、ジルコニア加工メーカー大手のジルコンザーン社(イタリア)製です。こちらのメーカーはジルコニア加工においては、世界3大メーカーの1つで精度に定評があります。
当院はジルコニアの製作件数が多いため、外部委託ではなく専属の歯科技工士が常駐しております。
コンピューター上で行う人工歯の設計のほとんどを歯科技工士が行いますが、大切なポイントは患者様の口腔内をよく知っている担当ドクターのチェックが必ず入ります。
ジルコンザーンのCADCAMを導入したのが平成30年、それから当院歯科技工士は慣れないデジタル技工を習得し、数年の経験を積み、現在では定期的に更新されるアップデートにもすぐに順応できるほどの経験値となりました。
ジルコニア人工歯は100%3D LABOで製作したものです。
平成18年に戸塚区原宿に内藤歯科を開業しインプラント治療でまず取り組んだのが、銀歯から白い歯にすることでした。当時インプラントの人工歯は銀歯が多数派でした。白い歯ではメタルボンドくらいしかなかったので、当然のようにメタルボンドでインプラントの人工歯を外注にて製作して装着しておりました。ところが数年してメタルボンドのセラミックスがチッピング(欠け)を起こし、人工歯の再製が悩みとなりました。ここからジルコニア人工歯に方針を転換していくことになります。
平成24年にジルコニア加工を導入しました。当時は現在のようなCADCAMではなく、ジルコグラフという手間のかかるシステムだったのですが、私の周りにジルコニア加工ができる歯科技工士がいなかったので、私内藤が診療終了後にジルコニア人工歯を一人で製作しておりました。深夜作業の連続でしたが、その数年の間にジルコニアの特性というものを肌身で覚えたと思います。
この経験から学んだのは、歯医者は技工までできないといけないということです。業界の常識として歯医者は歯を削って型をとる、技工士は石膏模型の上に人工歯を作るという分業があります。しかし、欠損部分が大型化するインプラント治療においては、人工歯製作に歯医者もかなり関わらないと適合の良い技工物にならないと考えています。
現在は歯科技工士が専属でいてくれるため、私自身の技工をする時間はかなり少なくなりましたが、歯科技工士から加工の工程で困ったことがあっても、それをしのぐことができるアドバイスを経験から引っ張ってこられることが当院の財産となっています。
CADCAMは精密な工業技術ですから、工芸品のような従来の職人芸とは根本的に精度が違います。患者様への装着時は調整も少なく済んでおります。
工業製品のような加工技術ですので、強度は金属レベル、色調は安定して選択した色調が再現できております。
CADCAMは設計が済んでいれば、スイッチを押すだけで削る工程が始まります。また当院は隣に3D LABOがあるため連絡もスムーズです。ジルコニア人工歯は最短で翌日には入りますし、仮歯は当日に入れることができます。
手作業の工程の大部分が省略できるので、歯科技工士の負担軽減につながっています。